高齢のご家族が急に痩せた気がしたり、色が細くなっていたりすると不安になりますよね。
その症状は、もしかすると低栄養かもしれません。
日本生活習慣病予防協会(http://www.seikatsusyukanbyo.com/statistics/2019/010026.php)によれば、65歳以上の低栄養は16.4%であることがわかります。
580万人程度の高齢者が低栄養であるということです。
ご家族には、できるだけ長く健康で過ごしてもらいたいですよね。
この記事では、低栄養とは何か、低栄養が及ぼす影響、そして低栄養の原因や治療法、予防策について詳しく解説していきます。
目次
1.低栄養とは
低栄養とは、エネルギー摂取量やたんぱく質などの栄養が慢性的に不足している状態のことです。
身体機能の維持に必要なエネルギー量は、性別や年齢、活動量により異なります。
主に食欲の低下や、噛む力が弱くなるなどの口腔機能の低下により食事が食べにくくなるといった理由から起こる場合が多いです。
2.低栄養チェック
低栄養になったら、どんな変化があるのでしょうか。
以下3つのチェックリストに当てはめて考えてみてください。
2-1. 体重の変化
体重の減少は、低栄養状態の人に見られる変化の一つです。
特に、1ヶ月から6ヶ月の間に体重減少率が3%以上だった人は注意が必要です。
体重減少率とは、ある一定期間でどのくらい体重が変化したかを調べる式です。
体重減少率はこの式を使うことで求められます。
(通常の体重kgー現在の体重kg)÷通常の体重kg×100
たとえば普段75kgの体重があり、現在65kgである場合には以下のような計算式になります。
(75ー65)÷75×100=13.3
この期間には13.3%の変化があったと読み取ることができます。
過去1ヶ月で5%以上、3ヶ月で7.5%以上、6ヶ月で10%以上の変化がある場合には低栄養の可能性が高いです。
通常の体重を把握している必要があるため、普段から体重を測る習慣を作っておくと今後のためにも良いです。
出典:厚生労働省「栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリング」資料
2-2. BMI値の変化
低栄養のリスクはBMI値からも見ることができます。
BMI(Body mass index)は、体重と身長から肥満度を算出した体格指標のことです。
BMIは以下の式で求められます。
BMI=体重kg÷身長m×身長m
たとえば体重75kgで身長が175cmの場合は以下のような計算式になります。
75÷1.75×1.75=24.49
BMIは24.49であるとわかります。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020度版)」によると、目標とするBMI指数は50歳から64歳で20.0~24.9、65歳から74歳で21.5~24.9、75歳以上で21.5~24.9となっています。
2-3. 血清アルブミン値
血清アルブミンは血液中のタンパク質の一種で、総タンパクの約6割を占めます。
血清アルブミンは栄養の運搬や血液の浸透圧の調整を行なっており、3.5g/dlを下回っていると、低栄養の疑いがあります。
尚、血清アルブミンの値は、血液検査で知ることができます。
ただし、血清アルブミンが低下しているからといって、必ず低栄養であるとは限りません。
血清アルブミンの低下は、肝機能障害やタンパク質消費量の増大、タンパク質の喪失など他の疾患でも起こりうることです。
3.低栄養の症状
身体機能の維持に必要な栄養が慢性的に不足したり、偏っていたりすると身体に様々な変化が起こります。
この章では、低栄養の症状を4つ解説します。
3-1. 体重の減少
ご家族が急に痩せた様子などから、低栄養について調べてみたという方も多いでしょう。
低栄養になると、目に見えて体重が落ちるようになります。
低栄養は、身体に必要な栄養が外部から吸収できていない状態です。
栄養が取れない状態が続くと、自分の中にある筋肉や脂肪を分解してエネルギーにするため、体重減少に繋がります。
3-2. 皮膚の炎症と床ずれ
筋肉や脂肪は、骨と皮膚の間でクッションの役割を果たしています。
低栄養でこのクッションが少なくなってしまうと、横になったり座ったりしている時に骨や皮膚を圧迫してしまい皮膚の炎症が起こります。
また床ずれの原因にもなります。
床ずれとは、布団や椅子と接触する皮膚部分に酸素や栄養が行き渡らなくなり細胞が死んでしまうことです。
皮膚が長時間、連続的に圧迫されて血流が悪くなることにより生じます。
3-3. 運動能力の低下
筋肉量の減少によって運動能力が低下することも、低栄養の症状の一つです。
運動能力が低下することで、普段の運動量が減少したり、転びやすくなったりするリスクがあります。
転んでしまうと捻挫や骨折などの原因にもなるため注意が必要です。
3-4. 免疫力が落ちる
身体は、日々の食事や運動などの材料によってその働きを維持しています。
そのため、身体を維持する材料が不足すると免疫力が低下し、風邪や感染症にかかるリスクが高まります。
他にも浮腫や腹水などを起こしやすくなったり、皮膚が傷つきやすくなったりします。
4.低栄養の原因
4-1. 身体的要因
運動機能が低下することが、低栄養の要因となってしまうことも。
ここからは、低栄養の身体的な要因2つ解説していきます。
4-1-1. 移動が辛い
体が思うように動かなかったり、スーパーまでの距離が遠かったりすると、なかなか買い物に行けないことも。
また重たいものを運ぶエネルギーがいるため、敬遠してしまいがちです。
保存の効く食品で済ませていると、低栄養になってしまう可能性があります。
4-1-2. 調理が大変
「沢山作っても食べられないし……」
「自分のために作るのも面倒」
そう思って、淡白な食事で済ませていませんか?
調理が大変だからという理由で同じものや簡単な料理で済ませていると、必要な栄養素が不足して低栄養になるリスクがあります。
4-1-3. 食欲の低下
体重や運動量により、身体機能の維持に必要な栄養の量も異なります。
食べる量が減ってしまうことも、低栄養を引き起こす原因の一つです。
ただし、無理に食べるとストレスになってしまうこともあるため注意が必要です。
4-2. 精神的要因
栄養は身体のことですが、低栄養は精神的な要因もあります。
ここからは、低栄養の精神的な要因について紹介します。
4-2-1. 喪失体験
高齢になるほど、友人や配偶者、ペットとの死別などのを喪失体験が増えていきます。
そういった喪失体験も、食欲低下の原因があります。
また、喪失体験は死別だけでなく、以前できることができなくなったという体験も含まれます。
例えば、歩くのが遅くなったり、耳が遠くなったと感じるなど、一見食事とは関係ないように見えることも、心理的ストレスから食欲を低下させてしまいます。
4-2-2. 孤立感
一人暮らしをしていたり、自分の悩みを「わかってくれない」と感じて人とのコミュニケーションを避けたりすると、その孤立感から精神的ストレスを抱えてしまうこともあります。
5.低栄養になったら
低栄養になったら、専門医の指示にしたがって食生活などを改善していくことが必要です。
専門医の指導に従って、食事の時間や量、栄養バランスなどに注意しながら食事を作りましょう。
1日3食にこだわる必要はありません。
専門医に悩みを相談し、必要であればサプリメントなども取り入れてみましょう。
6.低栄養を予防する方法
低栄養は、急激に体調が悪くなるものではありません。
この章では、今からできる低栄養を予防する工夫を紹介します。
6-1. 1日3回の食事
一度に食べる量が少ないことから、1日に3回以上は食事を摂ることが必要です。
食べる回数を増やすことで、必要なエネルギーやタンパク質の摂取に繋がります。
6-2. 栄養バランスの良い食事
出来るだけバランスの良い食事を摂ることを心がけましょう。
主食、主菜、副菜を揃えることがポイントです。
主食は、ご飯やパン、麺類などを指し、体のエネルギー源になるもののことです。
主菜は、肉や魚、卵などの動物性タンパクや、大豆製品などの植物性タンパクを指、筋肉や血液の材料になります。
副菜は、野菜や海藻、きのこ類など、ビタミンやミネラル、食物繊維が含まれるもののことです。胃や腸の調子を整えてくれるなど様々な効果があります。
6-3. 食事を楽しく摂る
食事を楽しく摂ることも低栄養の予防に効果的です。
家族団欒の時間としても活用することで、食欲がなくても食べる楽しみやコミュニケーションの増加に繋がります。
6-4. 栄養補助食品の利用
毎日の全ての食事を、栄養バランスを考えて作るのは難しいです。
栄養素を補うためには、栄養補助食品を利用することもできます。
ゼリー状になっていたり、飲料として販売されているものも多く、デザート感覚で楽しめることも嬉しいポイントです。
栄養補助食品を選ぶときには、専門医や薬剤師などに聞いてみるのがおすすめです。
7.まとめ
低栄養は、エネルギー摂取量やたんぱく質などの栄養が慢性的に不足している状態のことです。
一度低栄養になってしまうと、低栄養の悪循環が生じてしまいます。
しかし、家族の助けや本人の努力によって改善するものです。
本記事で紹介した対策を参考に、低栄養の予防や改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。