高齢化が進む中で、高齢者虐待の問題が深刻になっています。
高齢者虐待の件数は年々、増加傾向にあります。
さらに、自宅にかぎらず、介護施設や病院など場所を問わずに虐待が起きています。
高齢者虐待はどのような背景で起きているのでしょうか?
高齢者虐待の現状や虐待が起こる原因、対策について解説します。
1.高齢者虐待の現状
厚生労働省の調査結果によると、高齢者虐待の件数は年々、増加傾向にあります。
2017年度には、約18,000件の虐待が起きており、この数字は年々増加すると考えられています。
養介護施設従事者など(※1)によるもの | 養護者(※2)によるもの | |||
虐待判断件数 | 相談・通報件数 | 虐待判断件数 | 相談・通報件数 | |
2017年度 | 510件 | 1,898件 | 1万7,078件 | 3万0,040件 |
2016年度 | 452件 | 1,723件 | 1万6,384件 | 2万7,940件 |
増減率 | 12.8% | 10.2% | 4.2% | 7.5% |
※1.介護老人福祉施設など養介護施設職員、または居宅サービス事業など、養介護事業の業務に従事する者(ヘルパーなど)
※2.高齢者の世話をしている家族、親族、同居人など
参考:『平成29年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』
〇家族や親族による虐待の現状
家庭内の高齢者虐待を見てみると40.5%が息子、21.5%が夫、17.0%が娘となっております。
このデータからも男性の虐待が多いことがわかります。
〇介護施設での虐待の現状
平成27年度では、特別養護老人ホームが30.6%が最多となっています。その他は、有料老人ホーム20.9%、グループホーム15.9%、介護老人保健施設9.1%と続いています。
2.高齢者虐待の主な種類
高齢者虐待は、身体的虐待だけではありません。
暴言や無視、いやがらせなどの心理的虐待や介護・世話の放棄・放任、勝手にお金を使ってしまうなどの経済的虐待が含まれます。
また、性的虐待が起こる場合もあります。
身体的虐待 | 暴力的行為によって身体に傷やアザ、痛みを与える行為や外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為 |
心理的虐待 | 脅しや侮辱などの言葉や態度、無視、嫌がらせ等によって精神的に苦痛を与えること |
性的虐待 | 本人が同意していない、性的な行為やその強要 |
経済的虐待 | 本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人が希望する金銭の使用を理由なく制限すること |
介護・世話の放棄・放任 | 必要な介護サービスの利用を妨げる、世話をしない等により、高齢者の生活環境や身体的・精神的状態を悪化させること |
参考:東京都保健福祉局https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/gyakutai/understand/shuruitoteido/index.html
平成29年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律によると、虐待を受けていた高齢者の中で、身体的虐待を受けていた人が最も多く66%となっています。
次いで心理的虐待41%、経済的虐待を受けていた人も20%いるという実態が明らかになっています。
また、自覚がない場合も少なくありません。
高齢者虐待は、虐待をしている人に自覚があるとはかぎらないです。
今一度振り返ってみる必要があるかもしれません。
3.在宅介護で虐待が起こる理由
3-1.介護疲れ・ストレス
在宅介護で虐待が起こる理由として、虐待者の介護疲れ・ストレスが全体の4分の1を占めています。
介護をしていると、排泄介助や入浴介助、食事介助など休まることなく介護が続きます。
そのため、介護の疲れから、虐待に繋がってしまうと考えられます。
介護にストレスを感じている場合は、人に相談することで多少は解消されるでしょう。
家庭の事情を赤の他人に話すことには抵抗もあるでしょうが、勇気をふり絞って相談してみてください。
友人や親戚に相談しづらい場合は、地域包括ケアセンターや自治体の相談窓口にお問い合わせしてみてはいかがでしょうか。
3-2.介護うつ
介護うつとは、介護によって生じるストレスが引き起こすうつ状態です。
介護の中での肉体的な負担や「大事な家族をきちんと見なくては」という責任感など精神的な負担により、「介護疲れ」を感じます。
その「介護疲れ」を溜め込んでしまうために介護うつを起こしてしまいます。
介護うつになると、高齢者虐待を起こしてしまいやすくなります。
介護うつの心配がある場合の解消法は、介護の現場から離れ休養を取ることです。
要介護者に迷惑をかけてしまうと思われるかもしれませんが、介護は介護者の健康があって成り立つものです。
家族や親戚に介護を頼めない場合は、ショートステイを利用する方法もあります。
どうしても心配な方は、デイサービスなどで短時間だけでも自分の時間を確保して、ゆっくりと休みましょう。
3-3.被虐待者の認知症の症状
要介護者の認知症の悪化や病気の発症が、虐待の引き金になる場合もあります。
介護者が認知症に対する知識が乏しい場合、大きなストレスとなってしまうことが多くあります。
実際に、虐待されている高齢者のうち、約84%の人に認知症症状が認められています。
4.高齢者虐待防止法について知ろう
高齢者虐待防止法は、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」という正式名です。
虐待の定義を明確にして、相談の窓口を設けることで、高齢者虐待の防止・保護を行うために平成18年4月から施行されました。
また、虐待の防止と保護に加えて、介護者の負担軽減を図ることも目的となってます。
この法律によって、国民には虐待に気づいたら市町村に通報する努力義務があることが定められています。
もし、虐待を受けていると思われる高齢者を発見した場合は、高齢者虐待対応窓口、または地域包括支援センターに連絡しましょう。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか?
高齢者虐待は、年々増加しており、今後も増え続けると予想できます。
虐待の原因は、ストレスや知識不足が多く挙げられていました。
虐待をしている人に自覚があるとはかぎらず、一度振り返ってみる必要があるかもしれません。
介護に対する知識をつけるとともに、介護のストレスをうまく解消する必要があります。
ストレスの解消法についてはこちらの記事をご覧ください。