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妹夫婦(1) ~娘の事情 母の想い~

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年末三十日に、妹の義父が入院した。うちの父と同じ年の生まれなので今年95歳である。心臓が悪く、数年前にも一度入院したことがあった。妹婿はすぐ親元に帰り、正月は元日に妹がひとりで母に新年の挨拶に来た。妹も向こうに行っていなくていいのかと思ったが、面倒臭いので聞かなかった。

容体を聞くと、意識はハッキリしており、すぐに退院できそうだということだったが、高齢ということもあり、いざという場合のことを考えないといけないようだった。妹の義父は職人で年金が少なく義母がひとりになるととても暮らしていけないから、さてどうするか、妹婿としては母親をひとりにするのは心配なので、連れてきて嫁姑仲良く三人で暮らしたいということだったらしい。

実際、妹婿はすぐにも母親を連れてくるような話をしたらしいが、

「お義父さんは、病院でも立って歩きまわれる状態だっていうし、ひとりではさびしがるにきまっているから、お義母さんはうちに来られるわけないの」と妹は決めつけるように言う。

だから妹婿がひとりで実家と病院に様子を見に行き、そのまま年末年始はそちらで寝泊まりしたということらしかったが、ハッキリとは言わなかった。婿殿が決めることで妹は知らないということなのかもしれなかったが、おしどり夫婦の妹にはありそうにないとわたしは思った。余計なことを言うと、うちの母がいろいろ口を出すから煩わしいと思って避けたのかもしれない。実際母はいつもそんな感じだから、妹もわたし同様、余計なことは極力言わないようになっているのである。

いつものように、妹は二時間近く母と雑談して帰ったが、いつもかならず一緒に来る婿殿がいないのと、義父が入院しているということもあって、いつもより婿殿とその血縁者に対する嫌みが多かったかもしれない。わたしは女二人の会話など面倒なのであまり聞いていなかったからこれはあくまでも推測に過ぎない。だが、なぜそう思ったかというと、妹が来た後はたいてい上機嫌なはずの母の機嫌が、あまりよくなかったからである。

妹が帰ってすぐに、「今日のアイ子は変だったね。なにさまのつもりなのか、えばっちゃって」と母が怒ったように言った。

「そうかなあ?」とわたしは言ったが、実はわたしもそれには気がついていた。というか、妹がいつも通りなのに気付いたというのが正しい。妹がわたしや弟と話すときのように普通に辛辣な話し方をしていたからだ。妹がわたし同様、母に余計な話をしないのは既に書いたとおりだが、たぶん、疲れていて話し方にまで気を回す余裕がなかったのだろう。でももちろん母にはそんなことは分かるはずもなかった。

母は予想通り、妹のことが気になりだしたようで、婿殿とお義母さんのことで喧嘩したのかしら、とか、なんでお義父さんのお見舞いに行っていないのか、とか、あれこれ心配しだした。妹は自分の話は(特に夫婦の話は)基本的にしないので、大晦日に夫婦で見舞いに行ったような話しぶりだったが、その前後の成り行きはわからなかった。電車で行ったのかクルマで行ったのかも、いつ帰って来たのかも、ハッキリしなかった。そのあたりはいつも通りで、母を心配させそうな部分は微妙に避けていた。

母は「アイ子は、仏さまに供えるものをなにももってこなかったね、正月だってのに。まったく計算高いんだから」と言ったりもした。

だが、実際には妹は帰る少し前に、近くに開店したおいしいと評判のシフォンケーキ屋に行き、売り切れで買えなかったのである。それはたぶん母が話題にし、妹は、何も持ってこなかったからと買いに行ったのではなかったかと思う。

「いや、だからシフォンケーキ買いに行ったでしょ」とわたしはフォローする。

「そうだけど…」と母はそれでも不満そうだった。

それから、突然思い出したように、ぽつんと「岸森のお父さんは、この寒い間にお葬式かもしれないね」とつぶやいた。

なるほど、やはりそれがいちばんの気がかりだったのだな、とわたしは気がついた。義父の看病にも行かないなら、自分の看病にだって来ないかもしれない、と母は思ったのかもしれず、ネガティブな妄想の連鎖に囚われてしまったようだった。

(いくらなんでもそんなことはないだろう)とわたしは思ったが、妹の言動をあれこれ思い出して少し不安になった。

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