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桜の枝が折れた話(3)

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わたし自身は、隣の屋根にかかっている先端部分はそのままにして、というのは隣のケヤキがこちらの庭に二メートル以上も張り出してきているからだが、残りの枝をわたしが少しずつ切っていけば問題ないのではないか、と依然として考えていた。

業者に依頼にするにしても、そもそも、どこに頼めばよいのかがわからない。母が、およその値段をきいたリフォーム業者は問題外だった。これまで三回頼んだ修繕がすべてボッタクリといわれてもおかしくない出来栄えと値段だったからである。母は、なぜかそれが適正価格であるように思い込んでいるようだった。

だが、わたしには、どうしても、トタン板2枚で13万円(作業費込み)や、もとからそこにある装飾レンガの隙間を接着剤で埋め(30cm四方、業者が持ってきたのは接着剤のみ。作業費込み)て18万円が、適正な価格であるとは思えなかった。もともとは装飾レンガの割れて落ちた部分を修復してもらうつもりだったのである。確かに、接着剤を注入することも修復には違いなかったが、普通はレンガ自体を補うと思うだろう。母もそう思い込んでいたので、接着剤を注入しただけの出来栄えにはさすがに絶句していた。珍しくわたしに愚痴をこぼしたりもした。でも約束だということで全額支払った。

支払うのは母であり、我が家では金銭問題に子供が口を挟めないことになっているので、なにもいうことはできなかったのである。

とはいえ、さすがに桜の先端の枝を切るのに50万円と聞いては黙っているわけにはいかなかった。確かに、高さ十メートルもある枝を切るにはそれなりの技術と場合によっては機械も必要だろう。だが、それにしても高すぎると思った。幸い、わたしにも出してもらうというのだから、それなら口を挟むことも可能だろう、とわたしは考えた。

そもそも母がもうそこ以外にはない、と思い込んでいるリフォーム業者に頼まないようにしなければならない。だが、たとえばインターネットで探したところで、その業者よりも良いという保証はどこにもない。母が昔桜の剪定を頼んだときには30万円かかったと言っていたが、その業者はいわゆる何でも屋で、屋根の修繕をするといって前よりもひどくしていった実績があり、さすがに母もそこには頼めないと言った。

だから、とりあえずわたしがぼちぼち枝を切っていけば、そのうち母の気持ちも収まるのではないか、とわたしは思ったのである。その間に、もっといろいろ調べて、最適な業者を探せばいいのではないだろうか。

だが、それらはすべて杞憂に終わった。わたしが切った枝は、屋根の上にのったままだったが、もともと隣家にはみ出していた部分であり、隣家の庭に落としていって回収するのが最も効率的なのは明らかだった。そこで、隣家に母が許可を貰いに行ったところ、たまたま、それはまったくの偶然だったが、隣家に出入りの庭師が来ていたのだった。母が、見積もりを聞くと、その額は、くだんのリフォーム業者の半額以下だった。母は、すぐにその場でお願いすることにして、意気揚々と引き上げてきたのだった。

桜の枝が折れた話(3)|ながさごだいすけ|note

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