「カゾクを支える、カイゴを変える」
介護と親と向き合うサイト

シスターたちのためのミサ曲

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

実家に帰ると、母が久しぶりに、iPadに新しい曲を入れてくれと言った。入れるといっても、YouTubeで探し出して登録するだけである。コーラスの動画は、たいていいくつも見つかる。

今回は何年ぶりかでミサ曲をやることにしたのだ、と言う。グノーの小ミサ曲7番ハ長調だった。外国の曲なら楽勝である。世界中のコーラス動画は膨大だし、原語で歌うので楽譜も横文字だから、題名も作曲者名も正確にわかり簡単に検索できるからである。

毎年6月と12月にはコーラス会の母体である女学校でシスターたちのためのコンサートが開かれる。女子校だけにコーラス会はたくさんあって、いつも複数のグループが交代で当番を勤めるのだが、いつからか宗教曲ばかりではシスターたちも面白くないだろうと、一般の曲をしようという話になり、いつのまにか誰もミサ曲を歌わなくなってしまったのだという。それで、久しぶりにミサ曲をすることになり、古いiPadには登録されていたのだが、それをいくつか新しい方のiPadミニに入れてほしいということだった。

ミサ曲にしたのには、もうひとつ別の理由があるという。最近シスターの高齢化が進み、平均年齢は90歳を超えているのではないかと言う。車いすや歩行器のシスターがかなりいるが、彼女たちが使っている介護のデイサービスが、コンサートと同じ水曜日にあるので、みんなそちらに行ってしまい、参加者がかなり減っているというのである。催し物が水曜日というのは動かせないらしい。

半年に一度ならコンサートを優先しそうなものだとわたしが言うと、普段入浴もままならないようなシスターにとっては貴重な一日で、コンサートどころではない、ということらしかった。それで、少しはシスターたちに興味を持ってもらおうと、最近だれもやらないミサ曲をすることにしたのだ、と母は言った。

さすがに有名な曲だけあって、外国のプロらしいコーラスの動画がいくらでも見つかった。

母にみせると、「ありがとう、助かるわ。楽譜とピアノだけじゃ、細かいところがわからなくて」と言って、さっそく聞き始めた。

「コーラスは、もう八人しかいないの」と、ふいに母が言う。

「ソプラノは三人。三部はもう無理だからソプラノとアルトの二声だけど、アルトのなかにもソプラノをやりたいという人がいて、全部じゃないけど、そうするとアルトが減るの。でもアルトが厚いとボリュームがでて、いい感じになるから、アルトが多い方が良いのよね。」

そんなものか、とわたしは思う。コーラスはわたしにはよくわからない。

ちなみに、母はわたしが知る限り一度もソプラノ以外のパートを歌ったことがない。

※こちらの記事は、2020年4月27日にながさごだいすけ氏によって、note上にて公開されたエッセイになります。

https://note.com/carenavi/n/n5f958897622f

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

ご相談はこちらから