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ひとりで幼稚園(4)母の忘れ物

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「アイちゃんを忘れてきちゃったことは、話したかしら?」と母が言った。アイちゃんというのは、わたしの妹のことである。

どうしてわたしが、ひとりで遠く離れた幼稚園に通うことになったのか、母に聞いたときのことだった。ふっと思い出したように母が話し始めたのである。

「えっ?」とわたしは聞き返したが、そういえばはるか昔にそんなはなしを聞いたこともあったかもしれない、とぼんやり考えていた。

そもそも、わたしはその場に居合わせたはずである。母が妹だけをつれてわたしの幼稚園に行くはずがない。母によれば、それは運動会の日だったという。運動会は幼稚園だけでなく、小中高まで含めた大規模なもので、人出も相当あったと思われるが、園児はたぶん午前中だけだった。

わたしたちは家族四人で運動会に来ていたが、終わった後に両親と子供だけが教室に集合してお話があるというので、母はそのあいだ、妹をひとりで幼稚園の砂場で遊ばせていたのだった。まさか誰もいない砂場に置き去りにはしないだろうから、他にも遊んでいる子供や親がいたのだろう(と思う)。

母は、無事集会も終わり、最寄り駅に行くバスに乗ったところで、ひとり足りないことに気づいたという。もっと早く気づいてもよさそうなものだ。慌てて次のバス停から引き返して事なきを得た。といっても、妹はそんなこととは露知らず、無邪気に遊び惚けていたそうである。

今でもわたし自身が覚えている幼稚園内での記憶は4つしかないが、その1つが、荒涼とした(というか、たしか工事中の)校庭の片隅にあった砂場であるのは、そのこととなにか関係があるのかもしれないが、まったく思い出せない。

ちなみに、残りの3つの記憶のうちひとつめは、ジャングルジムの上に座っているおともだち1とおともだち2の姿である。ひょっとしたらおともだち3もいたかもしれないが、彼はすばしっこいので記憶の中でもじっとしていないのである。

ふたつめは、お弁当を入れておく保温器で、それとお昼寝の映像がなぜかワンセットになって思い出されるのである。弁当にはいつもかならず大好物の炒り卵が入っていた(と思う)。

残りのひとつは…。次回ゆっくり話すことにしよう。

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