どうでもいいといえば、どうでもいいことなのだが、日本では新型コロナウイルスの検査を、対象者をかなりしぼって行っている、とテレビでは連日のように報道される。だからよその国に比べて、日本の感染者数は少ないのだという主張である。
特に、連日テレビに登場される、以前感染研の職員であったというO先生が、そんな発言を毎日のようにしているらしくて、母が、テレビで感染者数を言うたびに、「ということは、十倍だから、感染者は二千人増えたわけね。全部で一万人に達したわけだから、十万人になったということなのね」と、思うだけでなく、声に出して復唱するのである。
O先生が女性だからなのか、政府側で登場する人間が男ばかりだからなのか、そんなはずはないと思うが、なぜかO先生の言うことを母はすべて受け入れて、政府側の言うことは間違っていると決めつけているようにも見える。
もちろん、それは間違っている。わかったのは、実際に検査したものだけなのだから、東京都の一日の感染者数が二百人を超えたというのは、けっして二千人を超えたことを意味しない。感染者が一万人を超えたということは、十万人を超えたことを意味しない。それらはすべて単なる推測に過ぎない。
推測だから正しいかもしれないが、間違っているかもしれないのである。
母は、二日前から鼻風邪をひいているようだ。鼻をしばしばかんでいる。実はわたしもおとといから鼻水が出る。母は、自分がコロナに罹ったのではないかと心配している。わたしはこの一週間、外にはでていないのだから、他人から感染症をもらう可能性はない。あるとしたら母か、先週来た妹夫婦である。母は理由は知らないが、なぜか毎日かならず買い出しに出かけているのだ。
毎日買い物に出かけ、鼻風邪をひき、コロナの患者は報告数の十倍と言う母を、コロナではないと断言できる人はたぶんいないだろう。
実際のところ、わたしはぜんぜん外出しないで我慢しているのだが、毎日の食糧の買い出しは必要なことだといって、かならず出かける母の行動までわたしには制限することはできない。母にとって、そのような毎日の行動が、やってはいけないと、今言われているものだという認識はまったくない。確かに政府も東京都も、日常生活を制限する必要はないような言い方をする。だから近所の商店街がいつもより混みあったりするのに。それが実は一番の要因なのかもしれないのに。
※こちらの記事は、2020年4月20日にながさごだいすけ氏によって、note上にて公開されたエッセイになります。
https://note.com/carenavi/n/nfa2ca638a7df