「被害妄想の症状はどんなもの?」
「身近な人に矛先が向く?」
「被害妄想はどのように対応したら良い?」
そういった疑問を抱えていませんか?
被害妄想は認知症に多く見られる症状です。
その症状は自分が被害を受けたと思い込むものです。
この記事では、被害妄想をもたらす背景には何があるのか、それにどう対応していけばよいかを解説します。
目次
1.被害妄想とは
被害的な妄想を、被害妄想といいます。
妄想とは、認知症の症状のひとつで、事実でないことを本当に起きたことのように信じ込みます。
また被害妄想は「物を盗られた」だけにとどまらず、
介護者が配偶者の場合は浮気されたと思い込むことも。
一人で妄想を繰り返し、脳内に事実として定着させてしまいます。
1-1. 被害妄想の背景
被害妄想の背景には、さまざまな感情が複雑に関係しているのです。
例えば認知機能の低下に加えて、症状への苦しみ、焦り、寂しさなどがあると考えられています。
また、家族に世話になっていることへの感謝と負い目といった感情も関係しています。
1-2. 被害妄想の種類
被害妄想にはいくつかの種類があります。
次の章からは、被害妄想の要因や具体的な症状を紹介します。
2.物盗られ妄想とは
物盗られ妄想とは、金品や思い出の品など大切なものを盗まれたという思い込みです。
認知症で起きやすい被害妄想の一つです。
「財布を盗まれた」「高価なアクセサリーを盗まれた」と身近な人を疑い周囲に訴えます。
身近で直接介護にかかわる人々が「泥棒」にされやすく、また、普段よい関係を築いている人に対しても起こります。
2-1. 物盗られ妄想の原因
2-1-1. 記憶障害や思考力の低下
認知症の症状により、自分で片付けたこと自体を覚えていられません。
物盗られ妄想の原因の一つに、認知症による記憶障害を認めたくないという気持ちがあります。
それは記憶障害を認めることで、周囲に役に立たない人と思われることを避けるためです。
そのような気持ちが、物盗られ妄想として現れます。
2-1-2. 不安感や喪失体験
高齢になると、親しい方が亡くなったり、財産が減ってきたりするでしょう。
また、徐々に自分が衰えてきたことの自覚から生じる不安や焦りもあります。
そういった悲しみや不安が、金品への執着や見捨てられる恐怖に発展します。
3.見捨てられ妄想とは
見捨てられ妄想とは、家族にとって自分は邪魔な存在だという思い込みから生じる妄想です。
見捨てられ妄想も認知症で起きやすい被害妄想の一つです。
3-1. 見捨てられ妄想の原因
認知症になると自分でできることが少なくなります。
そのため日々の生活を介護者に頼る機会が増えていきます。
今までできていたことが徐々にできなくなると、介護者に負い目を感じてしまうものです。
また、自分以外の家族が話をしているだけで、悪口を言われていると思い込むことも。
「自分は必要とされていない」という考えから孤独を感じ、見捨てられ妄想に至ります。
4. 幻覚症状
幻覚には、幻視、幻聴、幻臭、体感幻覚などがあります。
いるはずのない虫や小動物、人などが見えるのが一般的です。
症状が現れると、突然怯えたり興奮したりすることも。
症状が進行すると暴力や暴言、破壊行動が見られることもあります。
4-1. 認知症では幻視症状が多い
認知症の方の場合は「幻視」に悩まされるケースが多いです。
4-2. 妄想性人物誤認症
妄想性人物誤認症とは、妄想のなかにいないはずの人物を作り出す症状です。
人物誤認とは、知らない人を昔からの知り合いだと思い込んだり、逆に、家族や古くからの友人を知らない人と思い込んだりすることです。
5. 嫉妬妄想
嫉妬妄想は配偶者が浮気をしていると誤解して信じ込む妄想です。
この背景には、役割を失い、頼られる存在でなくなっていく悲しみや、自分の価値がないように感じる淋しさがあります。
6. 被害妄想への接し方
6-1. 否定しない
被害妄想への対応の基本として、否定しないことが挙げられます。
妄想の中で盗みや浮気などの加害者にされる家族はとても辛く、否定したくなると思います。
しかし、本人にとっては真実を訴えているだけ。
頭から否定されると本人は混乱してしまいます。
また、否定されたことに対してさらなる怒りや悲しみが生まれ、結果として感情を抑えきれず、妄想がひどくなることもあります。
否定せずにじっくり話を聞いてあげるようにしましょう。
6-2. 共感しつつ聞く
たとえすぐに妄想だとわかっても頭ごなしに否定せず、共感しながら話を受け入れてあげましょう。
本人の気持ちに寄り添いながら話を聞いてあげることで、「この人ならわかってくれる」という信頼や安心につながります。
また、本人の話を聞いているうちに妄想の背景にある感情や本音が見えたり、今後の介護につながるヒントを見つけたりすることも。
本人の訴えに隠されたメッセージに気づくためにも、共感しながらしっかりと話に耳を傾けるようにしましょう。
6-3. 別の話題に変える
物盗られ妄想が出ている時には、興奮している事が多いです。
そのため、ご本人が好きな番組や食事の話など、別の話を切り出すことも効果的です。
また、他の人を呼ぶと注意が逸れて収まる場合があります。
ただし、人を呼ぶ際は物盗られ妄想に理解のある人にしましょう。
6-4. 周囲へ相談
介護者は、周囲へ相談することが怖かったり、気が引けたりすることもあるでしょう。
また、簡単には解決できないと諦めの気持ちになることもあるかもしれません。
しかし実際に介護を1人で抱え込まず、誰かに相談することは非常に大切です。
暴言を吐かれたり、疑いの目で見られると大きな負担になります。
認知症の症状であるとわかっていても、それは同じでしょう。
精神的な負担から介護する側が、介護うつを引き起こすなど精神的に参ってしまうケースがあります。
まだ大丈夫と思っていても、できるだけ早く相談できる相手を見つけることをおすすめします。
6-5. 距離を取る
被害妄想の対象が介護者だったり、介護者に極度の負担がかかっている場合には、距離を取ることも対応方法のひとつです。
介護施設やショートステイの利用、病院への入院を検討するなどしてみましょう。
まずはケアマネジャーや医師などと相談し、本人と介護者双方にとって適切な方法を考えてみてください。
6-6. 自信を取り戻せるように働きかける
認知症の人のプライドが傷ついて被害妄想を発症している場合には、自信を取り戻せるよう働きかけるのも一つの対応方法です。
特に、本人が得意なものを教えてもらうのが良いでしょう。
例えば料理の作り方や絵の描き方などです。
本人が自信を取り戻すことで、被害妄想を抑える効果が期待できます。
6-7. 介護サービスの利用
被害妄想によって疑われたり、暴言を吐かれたりするのは誰にとってもつらいこと。
精神的負担を減らすためにも、ケアマネージャーに相談し、介護サービスを積極的に利用しましょう。
ヘルパーや施設職員であれば、被害妄想への対応も勉強しているため安心です。
6-8. 医療機関での診察
被害妄想がきっかけで、認知症が発覚するケースも。
初期の段階で認知症とわかれば、症状改善や進行抑制が期待できます。
本人が拒否している場合は、地域包括支援センターなどに相談しましょう。
できるだけ早い受診をおすすめします。
7.まとめ
高齢になるにつれ、自分の衰えを自覚して不安になることも多いでしょう。
被害妄想は、そういった不安や焦りが、金銭への執着や見捨てられる恐怖に発展して起こります。
被害妄想の矛先は、介護をしている時間が長い人に向くことが多いです。
疑いの目をかけられたり、ひどい言葉で罵られたりすることも。
「疑いの目や暴言は認知症の症状のひとつだ」と頭では理解していても、徐々に精神的に参ってしまいます。
この記事で紹介した方法を参考に、本人と介護者にとって適切な対応をしていきましょう。