認知症の方を介護するご家族にとって、BPSDと呼ばれる暴言や興奮などの認知症症状と向き合うことは、とても大変な事であり、介護疲れになってしまう原因の一つです。
実際、医療や介護の現場で、身体的な介護より精神的な介護の方が大変という声を耳にすることがあります。
近年、認知症の音楽療法がBPSDに効果的であるという報告が増え、社会的に注目されています。
そこで、「認知症のBPSDを改善したい」「認知症の音楽療法について知りたい」という介護者の方に、認知症のBPSDに効果的な音楽療法について詳しくご紹介します。
目次
1.認知症のBPSDとは?
認知症のBPSDとは、記憶障害や見当識障害(日時や場所がわからなくなる状態)といった中核の症状に伴って、二次的に生じる行動や心理の症状を示します。
例えば、物(財布など)をどこに置いたか忘れてしまうことにより、盗まれたと妄想したり、イライラして介護者に暴言を吐いたり、不安が強くなって徘徊したりなど、心理面や行動面に異常が生じる状態のことです。
1ー2.BPSDの行動症状の具体例
・焦燥(焦る感情)や不穏状態(穏やかでなくなる)になる
・暴言を吐いたり暴力を振るったりする
・叫び声を出す
・拒絶的になる
・意味や目的の無い行動をとったり、徘徊したりする
・食べる行動の異常(過食、異食、拒食)
・睡眠の障害(不眠、夜中に行動する)
1ー2.BPSDの心理症状の具体例
・妄想(ものを盗まれたと思い込む、被害を受けたと思い込むなど)
・幻覚(あるはずのない物や人や動物が見える、聞こえるはずのない声が聞こえるなど)
・誤認(ここは自分の家ではない、配偶者が偽物であると認識するなど)
・感情面の異常(抑うつ、不安、興奮、アパシー:無気力になる)
〈内部リンク〉BPSD(周辺症状)とは|認知症で起こる二次的な症状を解説
〈内部リンク〉アパシーとは?認知症の関係やうつ病との違い、家族の関わり方について解説
2.認知症の音楽療法による効果
では実際、認知症の音楽療法の効果にはどのようなものがあるのでしょうか。
認知症治療の一つに「スヌーズレン」と呼ばれるBPSDに効果的な、知覚を刺激する治療があります。
その中でも特に、聴覚の刺激による音楽療法には、これからご紹介する様々な効果があります。
〈引用文献〉単一事例研究法を用いた重度認知症高齢者に対するレクリエーションと音楽活動の効果の比較及び研究デザインの臨床的有用性の検討
2ー1.ストレス、焦燥感、興奮が軽減する
重度の認知症の方に音楽療法を行った結果、長期的にBPSDが軽減したという報告があります。
音楽によって副交感神経の働きが活発になり、リラックス効果が生まれ、ストレスが軽減するのです。
2ー2.傾眠が軽減する
中〜重度の認知症の方に様々な音楽療法を行った結果、傾眠が減少したという報告があります。
音楽療法を1時間受けることで、日中の眠気や夜間の不眠など、BPSDによる睡眠の異常に効果があるのです。
〈引用文献〉Emotional and behavioural responses to music in people with dementia: an observational study
2ー3.意味のある行動が増える
中〜重度の認知症の方に音楽療法を行った結果、無意味な行動が減少して意味のある行動が増えたという報告があります。
BPSDの行動症状の一つである、意味や目的の無い行動が減ることは、認知症の方本人だけでなく、介護者にとっても大きな負担軽減に繋がります。
〈引用文献〉Emotional and behavioural responses to music in people with dementia: an observational study
2ー4.ポジティブな感情が増える
認知症の方に対して、プロの生演奏を行った結果、他者との交流が増え、ポジティブな感情が増加し、逆にネガティブな感情が減少したという報告があります。
BPSDで抑うつ的になってしまうことがあり、気分が落ち込みやすくなったり不安が募ったりといった状態が続くのは大変苦しいことです。
音楽療法によるポジティブ感情の増加は、BPSDに効果的であると言えます。
2ー5.介護者との関係が改善する
認知症の方に対して生演奏を行った結果、コミュニケーションに変化が生まれ、介護者との関係が改善したという報告があります。
認知症の方とその介護者との関係性は、日々介護をする上で大変重要視されています。
介護は対人間である以上、関係性の悪化は防ぎたいものです。
3.認知症の音楽療法におけるポイント
認知症の音楽療法は、どのように行うのでしょうか。
音楽療法には、受動的なもの(音楽を聴く)と、能動的なもの(歌を歌う、楽器を奏でるなど)があります。
また、認知症の音楽療法として、昔を思い出すような音楽を用いる回想効果などもあります。
認知症に対する音楽療法は、音楽の質を極めるものではなく、音楽による効果を目的とするものなのです。
ここでは、認知症に効果の高い音楽療法におけるポイントをご紹介します。
3ー1.CDなどの録音音楽よりも生演奏が効果的
施設に入居している認知症の方に対して、①音楽家による生演奏、②演奏の録音、③音楽でないものの録音の3つを1時間ずつ提供した結果、BPSDに対して①の生演奏による効果が一番高かったという報告があります。
つまり、CDなどの録音された音楽よりも、直接的に聴く生演奏の方が認知症に効果的と言えます。
〈引用文献〉Emotional and behavioural responses to music in people with dementia: an observational study
3ー2.受動的よりも参加型の音楽療法が効果的
重度の認知症の方に対して、①受動的な音楽療法、②参加型の音楽療法を行った結果、②参加型の音楽療法の方がBPSDに明らかな効果があったことを報告しています。
つまり、単純に音楽を聴くだけでなく、自ら積極的に参加できるような対話のある音楽療法、歌を歌ったり楽器演奏をしてセッションしたりなど交流の多い音楽療法が効果的であると言えます。
4.専門家による認知症の音楽療法を体験するには
認知症の音楽療法を専門に行っているのは、音楽療法士です。
しかし、病院や介護施設に音楽療法士は少ないのが現状であり、作業療法士(リハビリテーションの医療従事者)がリハビリの一環として行っていることも多々あります。
認知症のご家族が病院や施設で音楽療法を既に体験している場合、介護者の方も一緒に参加してみるのはいかがでしょうか。
介護者として参加することで、認知症のご家族が普段見せない表情や意外な一面を見ることができたり、BPSDへのより良い対応方法を見つけるきっかけになります。
5.まとめ
認知症のBPSDにおける音楽療法の効果についてご紹介させて頂きました。
認知症の音楽療法には様々な効果があり、介護者との関係性をより良くすることにも繋がります。
この記事が、認知症のBPSDでお悩みの方にとって参考になれば幸いです。