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結核狂騒曲(2)

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結核ではないことを証明しないといけなくなったので、とりあえず抗生物質を処方してもらった医者に再び行くことにした。そこは、看板をよく見ると消化器内科が専門の診療所だったので若干の不安はあったが、実家から最も近い診療所だったのである。

医師には、他に言い方を思いつかなかったので、ありのままを正直に話した。咳がとれないが、実は幼稚園の入る前に結核になったことがあるらしく、古い病巣があって、レントゲン検査で指摘されることが多かった。ここ十年ほどは言われたことがないが、勤務先の偉い先生にそれを言ったら、結核でないことの確定診断が必要なので、してくるようにと言われた、云々。

医師は、頭の中でいろいろ整理しているようだった。表情には出さないようにしていたが、明らかに呆れている風でもあったし、話し方の間の取り方からして、わたしの精神状態を測りかねているのではないかと思えなくもなかったが、権威主義的な医師の上司の命令ということで、一応は納得したようだった。

とりあえず、レントゲン検査をして古い病巣を確認することになった。だが、それは本当に古いものだったらしい。というのも医師は画像をみながら首をひねっていたからだ。「これが、たしかに病巣の跡のようですね」というのだが、言っている本人もあまり確信がもてないようすだった。わたしもだんだん自信がなくなってきて、「いや、若いときの健康診断の時では毎回ほぼ確実にいわれていたので、間違いないと思うんですけど」と答えながらも、もしかしてそれが全部間違いだったってこともあるのだろうか、と思った。X線で写る影がすべて結核というわけではないだろうし、だとするとわたしはずっとアーチファクトに踊らされていたということになる。

「違うんですか?」とわたしが不安になって尋ねると、

「いや、間違いないとは思うんですけど、なにぶん古いもののようで、かすかにみえるという感じですね。でも、もし再燃しているんだったら、CTスキャンをすれば、白く光りますからすぐにわかります」と医師は答えた。

というわけで、次はCTスキャンを撮ることになったが、その診療所にはCTスキャンはなかったので、近くの古くからある病院に行くことになった。父が亡くなった病院であり、わたし自身は小学四年生のときに頭部の外傷で1ヶ月以上入院したことがある。ちなみに、昔は結核療養施設もあって、近づかないように言われていた。

予約を入れてもすぐに検査ができるわけではなく、検査を受けるまでに1週間かかり、その診断結果をもって再び診療所に行くまでにまた1週間が過ぎた。もっとも、休むようには言われなかったので、勤めには出ていた。咳も少しずつ収まっては来ていたが完全には止まらないので、主幹にはできるだけ顔を合わせないように研究室に閉じこもっていた。

CTスキャンの結果は、一目瞭然だった。さすがにここまできてお医者様も自分の診断に自信が持てたようで、やっと笑顔になって(それまではかたくなな表情をずっと崩さなかったのだ。もし本当に結核だったらどうしようかと思っていたのだろう)、「ここに白く光っているのが現在活動している病巣ですね」と肺の上部から中ほどにかけて点々と光っている斑点を指さした。それが咳の原因ということらしかった。「こちらは(と肺の底のほうにある古い病巣と思われる部分をさして)まったく活動していません。結核ではないですね。」

だが、確定診断のためには、喀痰検査が必要なので痰を採取して持ってこいと言われた。実際のところ、咳は空咳で、痰なんて絡まない。だが、どうしてもその検査をしないと、今でも結核の確定診断はできない、とお医者様がいうので、無理して採取した。それは痰というよりは、鼻汁と唾液の混合物のような気もしたが、とりあえずそれを提出した。結果は陰性だった。

ここまでくるのに、まるまる一か月かかってしまい。確定診断が出たのは11月1日だった。結局今に至るまで、発熱の原因は不明のままである。ああ、結核でなかったことだけは断言できる。

還暦前後はやはり体調が不安定になり易いものらしく、このあとクリスマスには結膜炎になって、眼医者(ちなみに、上記の内科の隣にあった。理由はやはり近かったから)に行くとアデノウイルスを疑われたが検査結果は陰性だった。9月の発熱が抗生物質で嘘のように下がったのとは異なり、こちらは目薬をいくら塗ってもなかなか症状は改善しなかった。これも結局原因はわからないままだった。

これからは、こうやって感染症にかかりやすい年代に入るのだな、と覚悟したが、結局その二回だけで終わった。以来、四年間、新型コロナも含めて、特に感染症を疑わせる症状は経験していない。

結核狂騒曲(2)|ながさごだいすけ|note

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