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夜明けの散歩

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1か月以上も実家で母と二人だけの生活が続くとさすがに限界だと感じる。テレワークには何の問題もないが、こんなに長期にわたって朝から晩まで実家にいることなど、もしかしたら大学卒業以来かもしれない。

自宅にいるときは毎日4時半に起き、朝食を食べてすぐに出かけるのが習慣だった。だが、外出自粛の今は、そんなに早起きする理由がないし、起きてもどこにも行けないから運動不足になってあっという間に三キロ太ってしまった。

今までは土日に増えた体重を、平日で解消してなんとかバランスをとっていたのだが、今は平日も毎日三食を母が用意しているので、食べないわけにはいかないし、ならば運動すればいいのだが、外には出られないからそれも限界がある。

それに、新型コロナのことはもちろんよくわからないが、一般的に消耗性疾患は体力勝負なところもあるから、変にダイエットなどして体力を低下させるのは得策ではないだろう。ダイエット中に新型コロナで重篤化なんてことになったら、死んでも死にきれない、というか絶対にそんな間抜けな理由では死にたくない。というわけで、実は意識していつもより多めに食べていたくらいだったから、太ったのは当然の結果だった。

だがこの生活をこのまま続けていけばいくらでも太ってしまう。自宅は駅から15分以上かかる山の上にあるので、勤めに行けば1日1万歩前後は歩くのだが、実家でテレワークでは、1日500歩も歩かないのである。歩くだけでは痩せないことは実証済みだが、少なくともどんどん太っていくことはない。

そこで、せめて平日だけでも自宅にいるときの生活リズムを取り戻そうと考えて、毎朝早起きして散歩することにした。朝4時半に起きて、近くの川沿いの道を1時間ちょっと歩くのである。1日1万歩には少し足りないが、それでも500歩に比べればかなりましだろうと思った。

ところが、2週間ほどその生活を続けたある日、いつも6時過ぎでないと起きない母が同じ時間に起きてきた。母も毎朝散歩するのだが、3千歩程度だし、勤めに行くわけでもないので、そもそもそんなに早く起きて歩く必要はない。実際前日までは6時起きだったのである。だからずっと寝ていればいいのになぜかわたしより早く起きないといけないと思い込んでしまったようだ。

わたしが散歩から帰ってくると、「今日はいつもより遠くまでいったの?」と聞く。つまりいつもより遅かったのではないか、という意味なのだが、わたしは帰ってくる時間を変えないようにしているし、実際にもいつも通りの時間だった。

「べつに、いつも通りだけど。いつもこの時間でしょ」というと、

「あらそう。今日はあたしの起きるのが早かったから、そのせいかしら」と母がいう。

昨日は8時前に寝たから早く目がさめちゃったのね、と言い訳しているが、いつもより1時間も早く起きたのに、なぜか仏壇の供え物を忘れている。ポットのお湯も沸かしてなかった。いつもよりたくさん歩いたわけでもなさそうだし、余った時間はどこに行ってしまったのだろうか。

なんだかちょっとおかしな感じがしたが、もちろんわたしには怖くて聞くことはできなかった。

だが、たまたまでなかったことは、翌日もまたわたしと同じ時間に起きてきたことで明らかだった。しかも、なぜかわたしと目を合わせないのである。わたしは実家では二階で寝起きしているのだが、階段を降りていくと知らん顔で目の前を通り過ぎて行く。もちろん、おはようの一言もない。わたしからいえばいいのかもしれないが、意識的にこちら見ないようにしているようなので気後れしてしまったのである。

翌日は土曜日なので散歩にはいかずに寝ていると、6時過ぎに母が現れて、今日は散歩に行かないのか、と聞く。「休みの日はいかない」と答えると、「あらそうなの」と言って去っていった。

でも、1時間ほどして台所に降りて行くと、わたしの朝食の用意がしてあるのはいつものことだが、母の朝食もまだ全く手つかずのまま残っていた。わたしが起きてくるのを待っていたということなのだろうか、とわたしは思ったが、土日にわたしが起きてこないのはいつものことで、いままで母が待っていることなどなかったのである。

(なんで突然?)とわたしは思った。

しかし、めんどうなので、もうあまり深くは考えないことにした。とりあえず今は、1日も早く緊急事態が解除になって自宅に帰れる日が来ることを願っているというのが本音である。土日に来られなくなることを心配してさっさと実家に帰って来たのだったが、1か月は予想以上に長かった。

※こちらの記事は、2020年5月25日にながさごだいすけ氏によって、note上にて公開されたエッセイになります。

https://note.com/carenavi/n/nbbe52b86ba00

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